オーディオとは宗教である:その理由と証拠

その1.ショップロゴ

 ネット上には様々なオーディオショップがあります。でも、多くの人は最初からある一軒のお店にたどりつくというわけではなくて、検索ワードでたまたま発見する、といったパターンが多いと思います。
 私もそのクチで、たまたまあるキーワードで検索していたら、逸品館というオーディオショップに出会い、そこで売っていたプリメインアンプを購入して、着払いで送ってもらいました。
 そして商品が到着した日、到着した商品を先に見た家族が私を変な目で見ます。あまつさえ母親に至っては「でかくて重い変なものが届いたけど大丈夫なの!?」と問い詰めてくる始末。確かにプリメインアンプはでかいし重いけど、そこまで問い詰めることはないだろうと思って箱を見たところ……



 どっからどう見ても仏教系新興宗教のロゴ
 このように、いつの間にかショップの象徴であるはずのロゴがどう良心的に見ても怪しい宗教のロゴと化してしまう事実。
 これこそ、オーディオとは宗教であり、オーディオショップはそのサティアンであるという一つの証左となりましょう。

その2.ショップの応対

 よくオーディオショップは商談や依頼の際、メールではなく電話や直接面談といった手段を好みます。ここからすでに宗教の勧誘手口と一緒なのですが、とりあえずそれはおいとくとしても、今まで私が巡り合ったショップはすべて店員の応対がとんでもなく横柄でした。職人気質な方が多いためと言えば確かに聞こえはいいですが、言い方を変えればサービスを提供するという能力に欠けている、もっと言えば外資系企業が真っ先に切りたがる人間ともいえます。たとえばスピーカーのエッジを修理してもらうため某ショップに電話で持ち込みしても良いかどうか聞いたところ、答えは「明後日以降にしてくれ」(誇張なし)でした。こんな言い方でこんなことを私がバイトしてる某家電量販店で言ったら殺されます。殺されなくても確実にクレームが来ます。これはひどい例としても、なんか職人気質というより、敬語は使ってるんだけど上から目線、要するに慇懃無礼を地で行く人が多い気がします。私のめぐりあわせが悪いのかもしれませんけれども。
 ちなみに結局エッジの交換は別のお店に頼んだのですが、そのお店に電話したところ「とにかく送ってください。直したら着払いでお届けします」の一点張りで、契約とか責任の所在とかが一切わからない昔ながらの職人って感じのお店でした。送った後から言うのもなんですが、非常に不安です
 このように慇懃無礼な人が多く、しかも自分の説を強く主張する人が多いのがオーディオショップなのです。なぜなら彼らはサティアンの教祖だからです。


 ちなみ私が今までに見たオンラインオーディオショップの中でもっとも電波度の高かったお店は「PRO CABLE - プロ用オーディオケーブル・最強のアンプ・オーディオ電源 ケーブル -」です。ページタイトルからしてキていますが、内容はもっとすごいです。
 ここでいちいち引用するという無粋な真似は致しません。ぜひ一度読んでみてください。オーディオショップとオーディオおたくのことを心底気持ち悪いと思えるようになるはずです。
 あと2chピュアオーディオ板のスレを読むのもお勧めです。小田嶋隆氏は2chで荒れやすい掲示板について次のように述べています。

 たとえば、「サブカル」や「マンガ」、「ロックミュージック」や「英米文学」のカテゴリーは、いつも荒れている。いや、単に荒れているというのとは違う。「一時期のジャズ喫茶みたいな感じ」と言えば良いのかもしれない。はじめはおしゃれで気持ちの良かったサロンが、ある時期から、イヤミったらしい半可通の巣窟に化けてしまう、あの感じだ。


 おそらく、掲示板はスナックと同じで、最終的には、立地や看板よりも、客の内面を反映した空間になるのだと思う。だから、「文化」方面の板は、その中でとぐろを巻いている常連の性質を反映した、茶室じみたいやらしい空間に変貌するケースが多い。具体的に述べると、やたらに口汚かったり、粘着質だったり、あるいはハイブローで見栄っ張りで知ったかぶりで初心者に冷たい場所になりがちだということだ。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20081030/175747/

 この分析はまさにピュアオーディオ板にあてはまるというかマジで気持ち悪いんですよあの板!

その3.専門誌の記事

 現在日本で発売されている唯一のピュアオーディオ専門誌、それが『Stereo Sound(以下SS)』です(ちなみにHPでは「世界に唯一の本格オーディオマガジン」と書かれています。本当かどうかは知りません)。載っているスピーカーやプレーヤーは100万円単位のものばかりで、一見すると素人が読んで面白い雑誌ではありません。
 しかしながらこの雑誌、実は素人が読んでも非常に面白いのです。


 まずこの雑誌をペラペラめくっていくうちに気づくのは広告の多さです。しかもほとんどがオーディオショップのもの。そこではベラボーな値段の付けられた新品・中古品が所狭しとPRされ、さらに、各ショップオーナーの言いたいことが詰め込まれています。そう、この雑誌は広告という名目のサティアン勧誘案内によるお布施で成り立っている雑誌なのです。しかも広告なので、各オーナーが言いたいことを言いっぱなしのため、カオスと呼ぶにふさわしい状況が出来上がっています。たとえて言うなら仏教とキリスト教ユダヤ教イスラム教とヒンドゥー教の宣伝が混在し、さらに各宗教が各宗派(たとえばスンニ派シーア派が同じ雑誌にPR広告を載せているようなものだと思ってください)に分かれて「我こそが正しい」と言っている状態。そこにあるのは矛盾とカオスです。それ以外はありません


 では記事はどうなのか。
 『SS』には、菅野沖彦氏というとても偉い先生が主筆のようになっています。『ロッキンオンジャパン』編集長時代の渋谷陽一氏とほぼ同じ感じです。具体的には印象批判とかよくわからない抽象論とか意見に背いたら飛ばされるからみんなヘコヘコしてるとかそのせいで雑誌全体のカラーが決定しているところとかなどなど相似点は盛りだくさんです。違うのは菅野氏が『SS』の編集長ではないという点と、マッキントッシュというオーディオメーカーの役員であるという点です。これはロッキンオンジャパンでB'zの曲レビューをB'z番のライターが書くのと一緒ですね。あとは低価格帯(50万以下ぐらい)のオーディオは常に馬鹿にして聞きもしないとか、 とにかく高級志向でマッキントッシュ贔屓とかいろいろありますがこのあたりはよく知らないので割愛。
 で、菅野氏は『SS』誌で巻頭言をお書きになられているのですが、それはオーディオに関する文章よりも愚痴がメイン。最新号のNo.168では「後期高齢者」という名称に噛みついたり枯葉マークに噛みついたりとお元気です。オーディオに興味無い方は「爺さんが何か言ってるな」と小馬鹿にして読むくらいでちょうどいいです。あ! この巻頭言を読んでいて私は何かデジャビュを感じたんですが、今その正体に気づきました! 雁屋哲先生と同じようなことを言ってるんですよ! 本業にやる気なくなった大御所は立場を利用して世間に物申した風の愚痴を書くようになるというよい例です。


 で、この菅野氏はレコード演奏家訪問という連載を『SS』誌上で行っています。内容はレコードを聞く金持ち宅に訪問して対談して美辞麗句をお互い並べたてるというもので、お客様を褒める言葉を常に探しているサービス業従事者にとっては最良の読みものなのですが、今発売されているVol.168で菅野氏は、日下部氏との対談の中で次のようなお言葉をおっしゃっています。

日下部 最近、このコラ・ヴォケールのディスクがフランスでCDになって復刻されたんです。私が持っているLPは聴きすぎてノイズが多いので、これで、やっとノイズから解放されると思って、喜んで入手しました。さっそく聴いたのですが、なにかスーっと聴き終えちゃいまして……。
菅野 音はいいけど、心に引っかからなかった。
日下部 そのとおりなんです。(中略)それで考えたのが、やはり、音楽というものは、自分の思い出とつながっているもので、そういうものを無意識に求めてしまうのではないかということです。もう、何百回とかけたLPですから、このコラ・ヴォケールは、私にはノイズぐるみで記憶に残っているんです。
(中略)
菅野 なるほど、その気持ちはよくわかります。(中略)おっしゃるように聴きなれたディスクには確かにノイズの記憶があります。SPはそれこそ、ノイズぐるみのノスタルジーといったらいいのかな。
日下部 先生にもそういうお気持ちがありますか?
菅野 もちろんです。
日下部 うれしいですね。自分の娘たちにかけてやってもわからないんですよ。
菅野 それはそうですよ。御嬢様方のジェネレーションになると、ジャリジャリというノイズは雑音にしかすぎませんから。
(中略)
菅野 これはオーディオにとても関係のあるお話です。レコードには何度でも繰り返し聴くことができるという、大きなメリットがあります。すると、自分がどのようにレコードを聴いてきたかということが、とても重要になるわけです。それこそ、音楽と自分だけの関係を築くことができるからです。同じレコードでも、人によって感じ方が異なるのはそういうことが関係しているからだと思います。
(『SS』Vol.168, P354-355)

 この対談は非常に示唆に富んでいます。それは、菅野先生は多くのピュアオーディオおたくが苦心している「ノイズの除去」(ピュアオーディオを構成する上で必ず出てきます。たとえば「http://joshinweb.jp/av/omba_05074.html?CKV=050722&ACK=TOKU」等を参照)など必要なく、それがあることはむしろ思い出として深く残るのだから良いと主張されているのです! さらに、音楽と自分だけの関係を築くことができるだけでいいのなら、ラジカセでもミニコンポでもiPodでもウォークマンでも携帯電話でも、LPでもSPでもCDでもwavでもmp3でも着うたでもなんでもいいとおっしゃっているのです! このご自身のマッキントッシュ信仰と真っ向から対立する意見を平気で吐ける神経。営業マンの皆さんは学ぶべきところが多いのではないでしょうか。そしてわけのわからない理屈で信者を言いくるめて国外逃亡を図ろうとしている教祖の皆様にも大変役に立つお言葉だと思います。


 『SS』には、この他にもさまざまな面白さであふれています。この面白さは、ちょうど聖○新聞の4コマを読んで爆笑するのと同じです。オーディオに興味がない方も、ぜひ一度読んでみてください。そして現在の自分を、自分自身で肯定し、愛してあげてください。『SS』を読んだあとのあなたは、今までの自分とはまったく変わっていることに気づくはずです。


 あなたはここにいていいんだ。