誰がオバマ大統領を勝たせたのか

 まあとっくの昔にいろんなところでいろんな意見が述べられているので詳細は避けますが、一言で言っちゃえばマケインが経済問題をあまり重視していなかったからだと思っています。あと、世論調査で歴代最低の支持率をたたき出したブッシュの路線を受け継ぐのではないかという懸念もあったと思います。加えてマケインを選べばサブプライムローンの破綻を発端とするアメリ金融危機の責任追及が甘くなるのではないかという懸念もあったでしょう。オバマは逆でどんどん責任追及していくという方針を明らかにしていますから。で、サブプライムローンの破綻で一番被害を受けた割合の多い人種がヒスパニックだったので、黒人以外の非白人、特にオバマには投票しないと見られていたヒスパニックもマケインにそっぽを向いてオバマに投票した、と。
 で、それで終わっちゃうと面白くないので他の要因を考えるに、公民権運動を知る人と知らない人でくっきりオバマに対する印象が変わったのがあるんじゃないかなと思います。30歳から64歳の層で民主党に投票した人が前回の選挙と比較して10%増えたそうですけど、ちょっと切り方が中途半端なのであれですが、ちょうど公民権法が成立したのが1964年ですので、45歳をボーダーとしてそこから下の世代はあまり肌の色に関するあれこれにこだわらない人が多いというのを表しているのかもしれません。まあ、黒人と白人をわけて比較していないのでわかりませんが、現状では非白人と比較して白人の人口の方が圧倒的に多いのですから、おそらくそうしたジェネレーションを反映しているのではないかと思います。要するに、公民権運動やらマルコムXやらなんやらで黒人にガーッとやられて辟易した層が「オバマが大統領になったらまたあの時代がよみがえるのでは」という共和党のキャンペーンに賛同する一方で、「黒人ってなに? そんなの気にしないよ」という層がそうした共和党のキャンペーンのセンス無さに辟易してオバマに行った、という見方も出来ます。事実、2007年の世論調査では、「黒人と白人の結婚を認めるか」という世論調査に77%がYESと答えています。そして実際選挙では、民主党への白人の投票率は前回の選挙時とほとんど変わらなかったわけです。
 あと、ブラッドレー効果でオバマに投票しない人がいるのではという声もありましたが、オバマが勝利した数日後のニューヨークタイムスでは「バフェット効果」がブラッドレー効果を相殺したのではないかという説が提唱されていました。オバマは選挙活動で富裕層の増税を明言していましたが、アメリカの投資家で大金持ちのウォーレン・バフェット氏が早いうちからオバマを支持していたんですね。で、アメリカの投資家で大金持ちの人たちが経済危機後「サブプライムなんてわけのわからん商品に投資して金融危機をあおった責任は我々にもあるのではないか(実際投資家が何人か議会に呼びつけられたりしていましたし)」「ちょっと自重しなければいけないんじゃないか」「バフェットを見習わなければならないんじゃないか」という気になり、そうした人々が口ではマケイン支持を言いつつこっそりオバマに入れたからブラッドレー効果が打ち消されたのではないか、という説です。本当かどうかはわかりませんが、なかなか面白い説だと思いました。


 オバマは男性の50%、女性の56%の票を集めました。普通であればヒラリーと戦ったオバマはどうしても女性を敵に回した後で大統領選を戦う羽目になるわけですし、何よりマケインは女性のペイリンを副大統領候補に指名していました。それでもなぜ女性の過半数を集めることが出来たのかと言えば、ペイリンがマッチョで保守で極右のエヴァンジェリストだったからじゃないかと。ホッケーママで売ってた割に女性の権利からもっとも遠いところで政治活動してたわけで、実際ペイリンに熱狂したのは宗教右翼のみだったと言われています。で、愛想を尽かした女性がオバマに投票したのではないかと。マケインは共和党の中では本来穏健派で、保守派からはいまいちどっちつかずだと言われて票離れを起こしかけていたため、ゴリゴリの保守派でなおかつ女性のペイリンを指名してダブルクリアを狙っていたわけですが、ペイリン本人の資質の問題もあって見事自爆したわけです。


 あとは高学歴者ほどオバマに入れたというのも興味深いです。クリントン政権時に「学歴はあったほうが良い職につける」なんてあおられたけど、実際高学歴でも給料が下がったり首になったりする。そんなさなかまさに高学歴の天才が非白人にも関わらずケニアからホワイトハウスへ入ろうとしている。まさに夢の象徴です。バックボーンとしては黒人がオバマにいれるのとあんまり変わらないのではないかと。


 アメリカ人はアメリカはもはや平和であると考えていて、イラクへの戦争は失敗だと考えていて、図書館で本を借りるだけで個人情報がFBIに送信されるという安全保障もやりすぎだと考えていた。そんなさなか「強いアメリカ」を唱えたマケインは負け、「融和」と「変革」を唱えたオバマが勝利した。もちろん経済危機というのもあったでしょうが、アメリカ人がアメリカのことを平和だと考えているからこそ経済だけを訴えるオバマが勝利したのでしょう。だからこそ経済問題に対する手腕が今問われているわけですが、ニューディール政策でも10年かかった問題を果たしてどこまで変えることができるのか。今後も見ていきたいと思います。